ちょっとした予定の相談と、悠真の財布から上がる悲鳴と?
著者:高良あくあ
*悠真サイド*
「暑いわね……」
「そう思うんなら、どうしてわざわざ学校まで俺達を呼びつけたのかが疑問なんですが」
部長の言葉に、思わず突っ込む。
今は八月。この彩桜学園だって、当然夏休みに入っているのだ。
部長は俺の言葉に頷く。
「そうそう、それよ。早く本題に入って結論出して、ついでに最近作ってみた『涼しくなる薬』の効果を悠真で試してみて、さっさと帰っちゃいましょ」
「何か今、一部物凄く不穏な単語が聞こえたんですけど!」
「ぶ、部長さん。その薬、一体……」
紗綾がおずおずと訊ねる。部長は怪しい笑顔で答える。
「ああ、大丈夫よ。多分安全。下手したらしばらく寒気と震えが止まらなかったり、血とか心臓まで凍ったりするかもしれないけど、多分大丈夫」
「大丈夫じゃねぇっ! どこが安全なんですか! 人はそれを危険と呼ぶんです!」
「あ、あの、部長さん。そ、そろそろ本題に入りましょう……?」
これ以上会話を続けるのは危険と判断したのか、紗綾がそんな言葉を部長に投げかける。ナイスだ紗綾!
部長は首肯。
「そうね。まったく、悠真のせいで余計暑くなったわ」
「俺は涼しくなりましたけどねぇ!」
もちろん、別な意味で。
「さて、そういうわけで本題なんだけど。ほら、そろそろインターハイじゃない」
「そうですね……でも、うちの部には関係無いのでは?」
紗綾が首を傾げる。
「それが、文化部もインターハイの間の活動予定を提出するようにって言われたのよね。休みにするか部活をするか応援に行くか」
「あ、部活するなら俺は無理ですよ。応援の予定がありますし」
口を挟むと、部長が俺を見る。
「へぇ、どこの部?」
「陸上部ですよ」
「ああ、羽崎君ですか?」
紗綾の問いに頷く。
「海里とそんな話をしていたからな。中学の時は応援なんて行こうともしなかったけど」
「そうなんですか……そういえば、秋波ちゃん達も陸上部の応援に行くそうですよ。秋波ちゃんが喜んでいましたから」
瀬野さん達、と言うと吹奏楽部か。
なるほど、確かに瀬野さんは陸斗の応援が出来るとなれば喜ぶだろう。いつも思うけど、あの馬鹿のどこが良いんだ?
「そういうことなら、うちの部は陸上部の応援にしましょうか」
「そうですね、それで良いかと」
「じゃあ決定ね」
部長が手元の紙に何かを書き込む。恐らくあれを提出するのだろう。
……うっ、話が終わったらまた暑くなってきた。
と、部長が立ち上がる。
「よし、書き終わった。さて悠真、これ飲みなさい」
そう言って、試験管に入った、やけに真っ青で不気味な液体を差し出してくる部長。
「……まさか、これ」
「さっき話したでしょ、『涼しくなる薬』よ」
「その話は冗談であって欲しかったんですが!」
「残念だったわね悠真、覚悟しなさい!」
「覚悟って言葉が出てくる時点で飲みたくないですよ!」
部室内を逃げ回る。ええい、何でこの暑いときに、暑い部屋の中を走り回らなくちゃいけないんだよ!
「ぶ、部長、暑いですしもう止めて帰りません!? 何か冷たいもの奢りますから!」
「……そうね、そうしましょうか」
意外なことに、部長はあっさり引き下がる。俺はほっと息をつき、紗綾に声をかける。
「紗綾も一緒に来ないか? 奢るから」
「えっ? あ、じゃあ、お言葉に甘えて……でも、良いんですか?」
「大丈夫だって。今月はあまり金使っていないから、割と余裕あるし」
「いえ、そうじゃなくて、ですね……」
紗綾の視線の先を見る。
……何故か不機嫌そうな顔の部長がいる。
「あの、部長? どうしたんですか?」
「どうしたも何も……まぁ、良いわ。ある意味、それでこそ悠真だし」
一瞬で機嫌を直し、部長は紗綾に視線を向ける。
「その代わり、勝負よ紗綾! どっちがたくさんのものを悠真に奢らせることが出来るか!」
「よりによって、何て勝負を持ちかけるんですか貴女は!?」
「分かりました、負けません!」
「紗綾も分かっちゃ駄目だって! そこは負けよう!」
……紗綾、こんなに積極的な子じゃ無かったと思うんだけどな……と。
そんなことを考えたところで、胸の奥に何かが引っ掛かった気がした。
***
「俺達って言うと……俺と、海里と陸斗ですか?」
「そうよ。三人とも割と性格違うじゃない、仲良くなったきっかけみたいなものはあるでしょ?」
そんなわけで某三十一種類、たまにそれより少し多かったり少なかったりする数のフレーバーがあるアイスクリームの店にて、俺達はそんな話をしていた。
くそっ、何でここのアイスはこんなに高いんだよ……百円のアイスとかならまだ良いのに……
心の中で嘆きつつ、部長の言葉に頷く。
「そりゃありますけど……それほど面白く無いですよ」
「でも、聞きたいです」
こっちは紗綾。俺はアイスを一口食べる。
「うーん……とりあえず、海里は小学校からの付き合いで陸斗は中学からなんですけど、これは話したことありましたっけ?」
部長を見ると、部長は首を横に振る。
「無いと思うわよ?」
「あ、私は秋波ちゃんから聞いた気がします」
ということは、瀬野さんは陸斗から聞いたのだろうか。
「海里は普通に小学校に入る前から仲良かったんですよ。何せ家が近いので」
『徒歩十秒圏内』プラス『親同士が仲良し』の要素は意外と侮れない。相手が女子だったら、そのまま恋愛に発展しそうな勢いだ。
最も俺達は男同士であり、俺にそういう特殊な趣味は無いのだが。
「へぇ……確か紗綾の家も、割と悠真達の家に近いわよね?」
*紗綾サイド*
部長さんに話を振られ、思わずびくっとしてしまう。
「えっ!? あ、は、はい……そうですね、結構近いです」
「ああ、確かに紗綾の家、割とうちから近かったな……で、陸斗の方は中学で同じクラスになったのがきっかけですね。あの頃は……まぁ、色々あって……俺も海里もちょっと暗くなっていて、そのせいか最初は物凄く仲悪かったんですが」
苦笑する悠真君。
……色々あって、の部分で、少し胸がズキッとする。恐らく『彼女』のことだろうから。
「その後ちょっとややこしいことが続いて、中二になる頃には仲良くなっていたわけですがね」
「端折ったわね」
「端折らずに話すのは無理ですよ」
「……まぁ、良いわ。ところで悠真、まだ財布に余裕はあるわね?」
「ありません」
「そう。じゃあこれとこれとこれとこれね」
「ありませんって言っているでしょう!? しかもどれだけ食べるつもりですか!?」
叫びつつ、立ち上がる悠真君。
「あっ、悠真君。部長さんがお代わりなら私もです! これとこれ、お願いします」
「紗綾も無理して部長に張り合わなくて良いよ! むしろ張り合わないでくれ!」
何だかんだ言っても、カウンターの方に向かってくれる悠真君。
「優しいですよね、悠真君」
「……そうかしら」
部長さんが目を逸らす。私は思わず笑みをこぼす。
「そう思わないなら、悠真君は私が貰っても構いませんよね?」
「それは駄目よ。紗綾もこの私に対抗するなんて、良い度胸じゃない」
私のことを睨んでくる部長さん。
ちょっと怖いけど……でも本気じゃないのは分かっているし、これくらいで怯えていたら絶対勝てない。
「悠真君のことで、部長さんに負けるわけにはいきませんからね」
「ふーん。前に言わなかったかしら、私の方が有利じゃないかって」
「そんなことありませんよ、今は互角だと思います。それに……」
言葉を切ると、部長さんが私を見てくる。
「それに、何よ?」
「……一つだけ、切り札もありますし」
「そう。ま、詳しくは聞かないけど」
部長さんが微笑む。
……部長さんがこういう優しげな表情を浮かべると、どうしても勝ち目が無いように思えてきちゃうから不思議です……って、駄目だ、自分に自信を持たないと。
そこで悠真君が戻ってきて、また別な話題に移ったわけだけど……
……それにしても、さっきの言葉。
やっぱり部長さんは、全部知っている……のかな?
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